プロジェクトムーンとMiliのコラボレーションにより生まれた『SAIKAI』は、単なるキャラクターソングの枠を超え、デジタルな音景の中に人間の感情の機微を見事に封じ込めた音楽的短編小説のような作品です。ゲーム『リンバスカンパニー』の世界観に深く根ざしながらも、プレイヤーの心に直接訴えかける普遍的なテーマー「別れと再会」、「記憶と運命」ーを、Mili独自の芸術的感性で昇華させています。この楽曲は、キャシー・ウェイの透徹したボーカルと、葛西大和が織りなす複雑で美しいサウンドスケープが一体となり、聴く者を物語の深淵へと誘います。

音楽的構成と物語性の融合
『SAIKAI』の作曲・編曲を手がけた葛西大和は、ピアノの繊細なアルペジオに、時として重く、時として幻想的な電子音響を重ね合わせ、良秀というキャラクターの内面の矛盾と悲哀を見事に音化しています。特に、サビに向かうにつれて膨らんでいくオーケストラレーションは、逃れがたい運命への抗いと、切ないほどの希求を同時に表現し、聴覚に強い印象を残します。キャシー・ウェイが紡ぐ歌詞は、直接的であっても文学的で、過去の記憶の断片と現在の感情が、日本語と英語の両方で交錯します。「もう一度会いたい」という単純な願いが、複雑な物語の文脈の中で、救いなのか、新たな苦痛の始まりなのかという哲学的問いへと発展していく様は、Miliの作品の真骨頂と言えるでしょう。
ビジュアルとサウンドの共鳴
この楽曲の魅力は、音楽だけに留まりません。アニメーター藤森蒼が手がけたMVは、曲の世界観を視覚的に深化させた重要な要素です。藤森の特徴的な、どこか憂いを帯びたが、強靭な生命力を感じさせるキャラクターデザインと、暗くも美しい色彩の動きは、楽曲が伝えようとする情感と完全にシンクロしています。ビデオの中では、キャラクターの過去の記憶の閃光や、象徴的な情景が、音楽の起伏に合わせて流れ出し、プレイヤーやリスナーに、ゲーム本編を超えた深い共感と解釈の余地を与えます。この「聴く物語」と「見る物語」の完璧な融合が、『SAIKAI』を単なる宣伝用楽曲から、独立したアート作品として成立させているのです。
Miliの創作哲学と今後の展開
『SAIKAI』は、Miliというグループの創作哲学ー「物語を音楽で語る」ことーを体現した最新の成果です。彼らは常に、ゲームやアニメという媒体のための仕事であっても、その世界観を尊敬しつつ、自分たちの音楽的アイデンティティを失うことなく、新しい芸術的表現を追求してきました。この楽曲は、プロジェクトムーンという独自の世界を構築する開発者と、同じく唯一無二の音楽世界を構築するMiliとの、理想的な創造的パートナーシップの証左です。『SAIKAI』が「ワンミリオンムーンズ」ツアーの一部として発表されたことは、ライブという生の空間で、このデジタルに生まれた物語がどのような新たな生命を宿すのか、期待を抱かせます。Miliは今後も、異なる物語と出会い、それを独自の音楽言語で翻訳し続けることで、リスナーに新たな「再会」の機会を提供し続けることでしょう。
Mili - SAIKAI 歌詞 和訳対照
When I was young and lost
幼く迷った頃
You showed up, and had my doors unlocked
君が現れて 俺の扉を開けてくれた
Like threads, petals unfold
糸のように 花びらがそっと開くように
A red kawara-nadeshiko
紅き瓦撫子のように
You have shown me that I am still capable of caring for someone else
君が教えてくれた 俺にまだ誰かを想う心が残っていることを
That I still bare the same innocence inside
胸の奥に 昔と変わらぬ無垢な心が息づいていることを
'Cause now I know that
今や俺は知っている
Pain cannot define the past
痛みが過去を定義することはない
We are built to overcome endless mishaps
俺たちは 無限の試練を乗り越えるために生まれてきた
You know, it is not so bad
君も知っている そんなに悪いことじゃない
When you are with me
君が俺の側にいるなら
Cherish as long as we last
共にいる時間が続く限り 心を込めて大切にする
'Cause S is not for sayonara
だってSは「さようなら」のための文字じゃない
Let memories play back
思い出を ずっと蘇らせよう
I knew I must step up
俺は前に進まなければならないと知っていた
You deserve the world and more
君には世界全体以上の幸せが値する
The truth is that you'd rather
でも本当は君は
Spend our limited time together
限りのある時間を 俺と共に過ごしたいだけなのだ
Protection alone is not enough
ただ守るだけでは 足りないのだ
Providing cannot fill an empty cup
物を与えるだけでは 空っぽの杯を満たせない
Thirsting for love
愛に渇いているのだ
I questioned myself a lot–
俺は何度も自分に問いかけた
What do I know about love?
愛について 俺には何が分かるのか
How can I recreate what I've never had?
一度も手に入れたことのないものを どう再築けばいいのか
All I know is that I must keep you thriving
ただ確かなのは 君を輝かせ続けなければならないということ
If nutrients are what you lack
君が栄養を欠いているのなら
I will water you with every drop of blood I have
俺は持てる一滴の血まで 君に潤いを与えよう
But now I know that
だが今や俺は知っている
Sacrifice is the easy path
犠牲を捧げるのは 簡単な道に過ぎない
My absence cannot ever change the fact
俺がいなくても その事実は決して変わらない
I wanted the very best for you, believe me
君に最高の幸せを届けたかった 俺を信じて
Our threads in red can never be cut
俺たちを繋ぐ紅い糸は 決して切れることはない
And S is not for sayonara
そしてSは「さようなら」のための文字じゃない
Will you forgive me at last?
最後に 俺を許してくれるだろうか